『ナショナリズムとジェンダー』からジェンダー観を考える2
今回も前回に引き続いて、上野千鶴子『ナショナリズムとジェンダー』1998 青土社
から、ジェンダーについて考えていきたいと思います。
前回の記事はこちらから↓
Ⅱ 「従軍慰安婦」問題をめぐって
上野氏は、本書において、「従軍慰安婦」問題から、ナショナリズムとジェンダーの関係について考察しています。
3 三重の犯罪
上野氏は、「従軍慰安婦」をめぐる犯罪には、主に3つ存在すると述べています。
それは、
①戦時強姦という罪
②戦後半世紀にわたるその罪の忘却
③被害女性の告発が否定されていたこと
です。
②については、戦時強姦であるところの「従軍慰安婦」の被害は戦後半世紀にわたって告発されることがありませんでした。
しかし、戦時強姦が存在していたことは知られており、実際に加害者がその時の様子を語ることもあったにもかかわらず、それが加害として認識されていませんでした。
それが、忘却です。
そして「従軍慰安婦」を語るのにはいくつかのパラダイムが存在します。
それは、
①「家父長制」パラダイム
②「戦時強姦」パラダイム
③「売春」パラダイム
です。
①「家父長制」パラダイム
このパラダイムは、女性の主体性を否定し、女性の性的人権の侵害を家父長制下の男性同士の財産権の争いに還元するものです。
このパラダイムでは、家父長的な抑圧の声が韓国でも日本でも起きました。
その抑圧の声の原因、理由は以下の通りです。
①「性的凌辱を受けたことは女の恥という儒教的道徳観」(上野、1998)から
②女を守り切れなかったことへの「韓国男性の「ふがいなさ」を衆目にさらされた」(上野、1998)から
③「女の告発を抑えきれなかったという「面目の失墜」」(上野、1998)に対して
つまり、「女性のセクシャリティは男性の最も基本的な権利と財産であり、それを侵害することは唐の女性に対する凌辱だけでなく、それ以上にその女性が所属すべき男性集団に対する最大の侮辱となる、という家父長制の論理がある。」(上野、1998)
②「戦時強姦」パラダイム
上野氏は、このパラダイムに対して、「戦争に強姦はつきものという見方や、戦時強姦はどこの国もやっているという見方がさらに加害を免責する」(上野、1998)という評価をしています。
そもそも「戦時強姦」は性欲から行われるものではありません。
「男性の権力支配の孤児のために行われ・・・・・・複数性(輪姦)に特徴があり、弱者への攻撃を通じて連帯を確立する「儀式」である」(上野、1998)と言います。
また「強姦は男性に対する最大の侮辱であり力の誇示である」(上野、1998)。
しかし「従軍慰安婦」を「戦時強姦」パラダイムとして解釈するには無理があります。
なぜなら、「従軍慰安婦」制度は、組織的に行われている面もあり、死組織的な戦時強姦を超えているからだといいます。
③「売春」パラダイム
このパラダイムは「慰安婦」を「売春」であったとして正当化するために主張されたものです。
まず、「売春」パラダイムの誤解について説明します。
「売春」は、男女の「性と金銭」の交換行為ではありません。
「売り手(業者や経営者、しばしば男性)と買い手(の男性)とのあいだの交換行為であり、そこでは女性は交換の主体=当事者ではなく、たんなる客体=商品にすぎない」(上野、1998)。
つまり、「売春」パラダイムは、女性の主体性を示すことで男性を免責するパラダイムであるといえます。
また「売春」パラダイムには欺瞞性が存在します。
1つ目は「「慰安所」制度には明らかな軍の関与があった」(上野、1998)ということです。
2つ目は「慰安所」の実態は「監禁下の「強制労働」であった。」(上野、1998)ということです。
3つ目は「慰安婦」の調達には女性の自由意志ではなく、暴力による強制や詐欺などが往々にして行われたことです。
以上のことからも上野氏がこれを否定するのもうなずけるでしょう。
④「性奴隷制」ー性暴力パラダイム
このパラダイムは「売春」パラダイムの持つ「任意性」を否定したものであり、女性を性暴力の被害者として位置付けた者です。
このパラダイムの背後には「「武力紛争下における女性への暴力」を問題化する人権の政治とフェミニズムの主張がある。」(上野、1998)
しかし、今日に至るまでの日本政府の公式見解は、
第一に「慰安婦」は「性奴隷」に当たらない。第2に国連人権委員会は過去にさかのぼって責任を追及するものではない
(上野、1998)
というものでした。
以上、「従軍慰安婦」とそれに対する解釈についてまとめてみました。
次回は、歴史として「従軍慰安婦」をとらえるということについて解説していきたいと思います。
次回の記事はこちら↓
『ナショナリズムとジェンダー』からジェンダー観を考える1
今回は、上野千鶴子『ナショナリズムとジェンダー』1998 青土社 からナショナリズムとジェンダーの関りについて考えていきたいと思います。
Ⅰ国民国家とジェンダー
1 戦後史のパラダイム・チェンジ
戦後史をどう見るかについてはいくつかのパラダイム(思考の枠組み、主張)があります。
①「断絶」史観
②「連続」史観
上記2つと比較されるものとして
③「ネオ連続説」
があります。
①「断絶」史観
戦前と戦後が「断絶」されたものという見方をする者です。
戦前の抑圧的な社会構造が戦後民主化によって払しょくされたというように主張されます。
言い換えると、「「抑圧から解放へ」の発展史観」(上野、1998)と言えます。
この史観は伝統などが、説明できないもの、難しいものを説明するための都合の良いものとされます。
②「連続」史観
これは「戦前と戦後の連続性を強調する」(上野、1998)史観です。
日本社会が大正デモクラシーから戦後改革まで連続的に発展してきたと考えます。そして、戦争は「近代化プロジェクト」を中断させたイレギュラーと考えています。
以上①、②で共通していることは、「戦後体制の正当化のために戦時下の状況をなにがしか「逸脱」視、「異常」視している点」(上野、1998)です。
③「ネオ連続説」
「ネオ連続説」は「「戦時体制」を逸脱ではなく「近代化プロジェクト」の連続用でとらえるという見方」(上野、1998)です。
つまり、この説では、戦争を逸脱ではなく、日本が近代化するうえで、あり得る流れであったと、どちらかというと戦争が起きたことを肯定的、自然に見ているということです。
「ネオ連続説」は①、②の問題点を解決するよう主張された説であるため、現在はこの説が主流となっています。
2 女性の国民化と総動員体制
日本において女性が国民化されたのは戦後であり、戦前では、国民化されていない中途半端な存在であったといえます。
まず女性の国民化の媒体には、
①国家(政治、政策など)
②思想・言説(政治家の主張、メディア等)
③運動、実践(女性運動など)
④生活、風俗
が考えられます。今回上野氏は、①、③を基に女性の国民化を考察しています。
女性の国民化においては方法が、
「参加型」「分離型」の2つが存在します。
2-1 「参加型」
「参加型」は主に連合国で取られた政策であり、「「性別役割分担」そのものを解体すること」(上野、1998)です。これは、性別によってするべきこと、振る舞い方といった性によって役割を分けることをやめることです。
この政策は戦域においては「兵役」が「国民化」の基準となりました。
つまり、国のために戦って死ぬことが出来る者は国民であり、国のために戦うことが出来ない者は国民ではないということです。
そのため「参加型」の国では女性の兵士化が求められました。
しかし、「性別不問の戦略は一見平等の達成のように見えるが、その中で生産や戦闘をになった女性たちは「公的領域」が男性性を帰順されている限り、「二流の労働力」「二流の戦士」であるということに甘んじなければならない」(上野、1998)と言います。
つまり、「参加型」でも男と同等の存在として認められることはありません。
2-2 「分離型」
「分離型」は主に枢軸国の間で取られた政策です。
これは「「性別役割分担」を維持したまま市領域の国家化をめざすこと」(上野、1998)です。
戦時期においては公的活動が制限される一方、「再生産者(生殖)と生産者(労働)」(上野、1998)としての役割が銃後の女性に期待されました。
「分離型」では、「「女らしさ」の規範を受け入れなければならないが、その反面、ゲットーの中の自立性領域を獲得することも可能になる」(上野、1998)。
つまり、「分離型」と「参加型」を比較すると「差異か平等か」のディレンマを抱えていることがわかります。
「分離型」では性的役割分担による差別であり、
「参加型」では無理やりな平等であり、真の平等ではなく、女性は二流であるとみなされています。
そのため、どちらが良くてどちらが悪いというような二項対立のような考え方は、できませんし、するべきではないといえるでしょう。
つづきは、次回の記事へ回したいと思います。
次の記事はこちら↓
参考:上野千鶴子『ナショナリズムとジェンダー』1998 青土社
誰もがかかる病気 若者のうつとは? 2
今回も前回に引き続いて、うつ病について解説していきたいと思います。
今回は若者のうつについて扱います。
前回の記事はこちら
- 第3章 若者の「新型うつ病」とは何か
- 「メランコリー型うつ病」と「新型うつ病」の違い
- メランコリー型うつ病
- 新型うつ病
- 新型うつ病の分類
- 1 ディスミスチア型うつ病
- 2 非定型うつ病
- 3 発達障害型うつ病
- アスペルガー障害
- まとめ
第3章 若者の「新型うつ病」とは何か
「メランコリー型うつ病」と「新型うつ病」の違い
まず始めに典型的なうつ病であるメランコリー型うつ病と若者に多い新型うつ病の違いについて説明します。
メランコリー型うつ病
メランコリー型うつ病は、
・真面目
・几帳面
・責任感が強い
・秩序を重んじる
・努力家
・他者への配慮を欠かさない
といったようなメランコリー親和型の性格の人がなりやすい病気です。
このような性格を持った方が、進学、転勤といったような生活状況の変化によって発症することがあります。
心身ともに疲弊し強い責任感を感じ、自分を責めて苦しみ、深刻な自殺念慮をします。
治療としては、抗うつ薬が良く効き、経過の比較的良好です。
新型うつ病
・若い人に多い
・状況依存性(自分が好きな事には元気になる)
・自責感に乏しく他罰的
・不安障害(パニック障害、社会不安障害、強迫性障害)を合併することも
というような特徴を持っています。
女性は摂食障害と合併することもあります。
新型うつ病の分類
新型うつ病には、ディスミスチア型うつ病、非定型うつ病、発達障害型うつ病などの分類が存在します。
以降、1つずつ説明していきます。
1 ディスミスチア型うつ病
ディスミスチア型うつ病は、気分調整性障害、適応障害、大うつ病性障害と診断されることが多いものです。
患者は、「未熟、依存的自己中心的な性格傾向を持ち、さほど規範的ではなく、自分自身への愛着があります。」(傳田、2009)
また過度の自尊心、万能感がうかがえることがあります。
症状
①「自責感や悲哀間には乏しく、輪郭のはっきりしない不全感や倦怠感」(傳田、2009)
②無遠慮、無配慮な傾向があるが、自身は繊細で傷つきやすい
といった症状があります。
治療
①抗うつ薬はメランコリー型うつ病と比較して少ない効果か見込めない
②「自分がおかれた場や環境の変化によって……症状が急速に改善することがあります。」
2 非定型うつ病
症状
②気分反応性(自分に都合が良い時には気分が良くなる)
③激しい疲労感(②に飛行して体が動かなくなる)
④人間関係に非常に敏感になる
上記のような症状を呈します。
④については「他人からの批判、批判、軽視、侮辱に対して過敏になり、ひどく落ち込んだり、絶望を感じたり怒りを示したりする」(傳田、2009)と言います。
近年では、全体のうつ病患者の10~38%が非定型うつ病を発症しているといわれています。
またこのタイプも不安障害、せっしょくしょうがい、双極Ⅱ型障害、パーソナリティ障害と合併しやすいといわれています。
3 発達障害型うつ病
発達障害型うつ病は「アスペルガー障害などの軽度発達障害を背景に持つうつ病」(傳田、2009)です。
アスペルガー障害
広範性発達障害の中の一つ
症状
①コミュニケーションの障害
・言語の発達の遅れ
・会話が成り立たない
・人の話が聞けない
といった症状があります。
②社会性の障害
・友達が出来ない
・相手のジェスチャーに鈍感
・楽しみや今日意味を他人と分かち合えない
・社会常識やマナーが身につかない
③こだわり行動
・想像力の乏しさ
・興味が偏っている
・融通が利かない
この3つに該当し、言葉の発達に大きな遅れがみられない場合、アスペルガー障害と呼ばれます。
まとめ
以上、うつ病や新型うつ病について解説してきました。誰もがなる病気であり、気づきにくい症状を持つからこそ自身や周りの人に注意が必要だと思います。
気になった人は読んでみてください。
参考:傳田健三『若者の「うつ」「新型うつ」とは何か』2009 ちくまプリマ―新書
誰もがかかる病気 若者のうつとは? 1
今回は、傳田健三『若者の「うつ」 「新型うつ病」とは何か』2009 ちくまプリマ―新書を参考に、うつ病や若者に多いといわれている新型うつ病について解説していこうと思います。
第1章 「うつ」って何だろう
「うつ病」の症状
まずは、うつ病の症状について説明していきます。
うつ病には典型的な症状がいくつか存在し、その症状に5つ以上が当てはまり、2週間以上続いていた場合、うつ病が疑われます。
①抑うつ気分(憂鬱で悲しい気分であるということ)
②興味・喜びの喪失
③食欲の障害(減退もしくは増加)
④睡眠障害(不眠であるということ)
⑤精神運動の障害(強い焦燥感)
⑥疲れやすさ・気分の減退
⑦無価値観・罪責感
⑧思考力・集中力の低下
⑨自殺念慮(死についての考え)
以上の9つの中で5つ以上当てはまっていた場合は、医療機関に受診することを考えたほうが良いと思われます。
「うつ病」の分類
「うつ病」と呼ばれるものには、大きく分けて5つの分類が存在します。
①大うつ病性障害
②気分調節性障害
③重複うつ病
④反復性うつ病
この5つです。
①大うつ病性障害
最も典型的なうつ病です。ある時点から気分が落ち込むなどの症状が生じ、その状態が2週間以上継続している状態となります。
大うつ病性障害は70%ほどの人が再発したり、双極性障害に変わったりすることもあります。
②気分調節性障害
気分調節性障害とは、軽度のうつ病が長期間続く状態のことです。軽度とは、大うつ病障害よりは、軽いうつ状態という意味で、疲れて抑うつ気分が続きます。長期間の基準は、大人では、少なくとも2年以上、子どもでは、1年以上となっています。
これは、性格の問題とみなされてしまうことが多く、外から見ても見分けるのが難しいと思われます。
またこれは、新型うつ病のタイプの一つとみなされています。
③重複うつ病
重複うつ病は、気分調節性障害から大うつ病性障害に移行することによっておこるものです。
重複うつ病の抑うつの程度は、大うつ病性障害と比較して重いものとなっています。
回復の具合は良好ですが、完全寛解(ほぼ完全に治ること)は難しいといわれています。
④反復性うつ病
再発率は、
1回目から2回目を発症する確率→50~60%
2回目から3回目を発症する確率→70%
3回目から4回目を発症する確率→90%
というようになっています。
つまり、「再発すればするほど、さらに再発しやすくなっていく」(傳田、2009)ということです。
⑤双極性障害
双極性障害とは、うつ状態と躁状態がある程度一定の周期ごと繰り返すことです。躁状態の程度によって、双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害に分けられます。
ちなみに躁状態とは、気分が病的に高まってしまう状態のことです。
⑤-① 双極Ⅰ型障害
双極Ⅰ型障害はうつ状態と重度の躁状態を繰り返すことです。これは、入院したほうがい良いほどの重度の躁状態になってしまいます。
⑤-② 双極Ⅱ型障害
双極Ⅱ型障害とはうつ病と軽度の躁状態を繰り返すことです。これは、入院を必要としない程度の躁状態です。
まとめ
傳田氏によると「「大うつ病性障害の障害」生涯有病率(いっしょうのうちに一度はうつ病にかかる割合)は、女性で10%から25%、男性では5%から12%であるといわれています。すなわち、女性では四~十人に一人が、男性では八~二十人に一人が、障害にに一度はうつ病にかかるということになります。」(傳田、2009)
うつ病が誰もがかかる病気であるといえるでしょう。
次回では、新型うつ病について解説していきます。
次回の記事はこちら
シングルマザーの貧困の実態とは? 2
前回に引き続いて、水無田気流『シングルマザーの貧困』2014 光文社新書を参考にシングルマザーの貧困の実態について解説していきたいと思います。
前回の記事はこちら
第4章 シングルマザーの「時間的貧困」
ここでは、シングルマザーの学歴について解説していきます。
全国母子世帯等調査(2011)によると、片親の学歴は、
母子世帯
中学校:13.1%
高等学校:47.9%
高等専門学校:3%
短期大学:12.1%
大学・大学院:4.7%
というようになっています。
そしてシングルマザーにおける正規職員・従業員の割合は、最終学歴を基にみると
最小:中学校→14.4%
最大:大学・大学院→48.7%
となっています。
一方、父子世帯の最終学歴は、
中学校:15.3%
高等学校:51.6%
高等専門学校:4.5%
大学・大学院:15.6%
というようになっています。
そして父の正規職員・従業員の割合を最終学歴を基にみると、
最小:中学校→57.1%
最大:大学・大学院→81.9%
となっています。
ここから分かることとして、同じ片親でもシングルマザーの方が学歴や正規の職という面でも恵まれていないことがわかります。
第6章 根強い日本の文化規範
ここでは、できちゃった婚について解説していきます。
家族問題は、「男女の性差以上に階層格差が与える影響が大きくなってきている」(水無田、2014)と言います。
その例として挙げられるのが「できちゃった婚」であると水無田氏は述べています。
水無田氏は、「「でき婚」は、若年層ほどその後の女性尾ライフコースに不利に働き、貧困の再生産を促す可能性が高い」(水無田、2014)と指摘しています。
厚生労働省「人口動態特殊統計」(2010)における「結婚機関が妊娠期間より短い出生の嫡出第一出生に占める割合」(つまり、できちゃった婚をした割合)によると、「「でき婚」率は年齢層により違いが極めて大きいことが特徴」(水無田、2014)だと、水無田氏は述べています。
具体的には、
10代の母:8割
20代前半の母:6割
20代後半の母:2割
30代前半の母:1割
というようになっています。
「日本では低年齢での妊娠出産は、実質的に学業の中断を意味する。相対的に高学歴化が進む日本で、このことは就業に関し、非常に不利になる。」(水無田、2014)と水無田氏は主張しています。
つまり、若年層におけるできちゃった婚は、学歴なあどの面からも経済的な困窮をもたらし、貧困の再生産を促すものになっているということがわかります。
まとめ
以上のようにシングルマザーの貧困の実態について解説してきました。セーフティネットの網目が比較的広い日本にとって、シングルマザーは生きにくいと思われます。
やはり、公的な助けが必要だと思います。
気になった方は、実際に読んでみてください。
参考:水無田気流『シングルマザーの貧困』2014 光文社新書
シングルマザーの貧困の実態とは? 1
今回は、水無田気流『シングルマザーの貧困』2014 光文社新書を参考にシングルマザーの貧困の実態について解説していきたいと思います。すべての章について言及することは出来ないので、一部の章の内容について述べようと思います。
第1章 シングルマザーの貧困問題
生活水準
シングルマザーの生活水準は、「国民生活基礎調査」(2013)によると、18歳未満の子どものいる一般世帯の平均年収が673万円であるのに対して、母子世帯の平均年収は243万円だといいます。
つまり、「保持世帯は平均して一般世帯の36%程度の年収」(水無田、2014)しかありません。
子どもの有・無
水無田氏は、「女性の就業率が上昇し、正社員に関しては男性の7割程度まで稼ぐようになった女性だが、実は「子どもの有・無」という指標でみると大きな格差が指摘される。」(水無田、2014)と述べています。
その格差とは、日本の子ども有りの女性労働者は、子ども有りの男性労働者の4割ほどの賃金しか得られていないということです。
この格差は、OECD諸国内で最大の男女格差となっています。
OECD 加盟国とは、外務省によると、
目的
つまり、先進国と呼ばれるような国々の中で、労働面においてトップクラスの男女格差を有しているということです。
シングルマザーの貧困は「父の後盾がなくなって前面に出てきた問題である。」(水無田、2014)、すなわち、母は一人で経済的な役割、母親業といわれるものを担わなければならないということです。
ここで水無田が警鐘を鳴らすのが、「シングルマザーが従来の家族規範を逸脱した時に浴びせられるはげしい非難の声」(水無田、2014)があるということです。
これは母親がするべきであるというジェンダーバイアスが存在する母性愛、子育てを自分自身で行うというレールから外れた「異端者への排撃」(水無田、2014)ではないかということです。
第3章 近代家族の矛盾
協議離婚と調停離婚
まずは、離婚の形態について説明します。
協議離婚:夫婦間の話し合いで成立する離婚
調停離婚:家庭裁判所の介入のもと、離婚の争点となっている物を調停して行われる離婚(親権などが争点となります)
この2つの離婚の形が存在します。
「養育費」の実情
2012年の「全国の母子世帯等調査」によると母子世帯の養育の受給状況(年度別)は、
0~2年→26.8%
2~4→31.1%
4年~→15.6%
となっています。
ここから分かることとして、2~4年で養育費の受給率は増えていますが、母子世帯の貧困を踏まえると「かなり水準と言わざるとを得ない数値」(水無田、2014)と言います。
また養育費の取り決めをしていない場合も多数存在します。
それはなぜでしょうか?
母子世帯で養育費の取り決めをしていない理由
1、「相手に支払う意思や能力がないと思った」47%
2、「相手とかかわりたくない」23.7%
3、「取り決めの交渉をしたが、まとまらなかった」9.5%
4、「取り決めの交渉が煩わしい」3.4%
5、「相手に養育費を請求できるとは思わなかった」3.1%
というようになっています。
父子世帯で養育費の取り決めをしていない理由
1、「相手に支払う意思や能力がないと思った」34.8%
2、「自分の収入で経済的に問題ない」21.5%
3、「相手とかかわりたくない」17.0%
4、「子供を引き取った方が養育費を負担するものだと思っていた」8.5%
5、「相手に養育費を請求できるとは思わなかった」4.8%
というようになっています。
このような結果から水無田氏は次に様に指摘します。
母子世帯で「自分の収入で経済的に問題ない」がたった2.1%であるにもかかわらず、実際に養育費の取り決めの話し合いを行おうとする母が少ない点である。低学歴、低所得層ほど、離婚調停や養育費取り決めなどについての知識が乏しく、また知っていたにしても、相手に請求できる所得が無いと最初からあきらめている姿が示唆される。
(水無田、2014)
養育費支払いに対する解決
このような養育費問題を解決するためにはどうすればいいのでしょうか。
水無田氏は2つの解決策を述べています。
①家族解決型
この解決型の内容は、「養育費問題はあくまで家庭内の問題であるので、司法の助けを借りて家族が解決するべき、という考え方」(水無田、2014)であり、「家族のプライバシーを重視し、自助を重んじる立場」(同前)を取っています。
しかし、この解決型の問題点は、養育費支払いに強制力を持たせることが出来ず、あくまで話し合いや家庭裁判所の調停によって解決せざるを得ないという点です。
②福祉国家解決型
この解決型は、福祉給付(児童福祉手当等)によって、「子どもの浮揚に関して公的扶養を優先するもの」(水無田、2014)であると述べられています。
しかし、この解決型にも問題点は存在し、それは福祉財源の確保をどのように行うかです。
現在の日本がどちらの解決型を想定しているかは、これまでの内容を踏まえると①家族解決型であるということが見えてきます。
つづきは次へ回します。
次の記事はこちら
参考:水無田気流『シングルマザーの貧困』2014 光文社新書
OECD(経済協力開発機構)の概要|外務省 (mofa.go.jp)
働く私たちの権利-労働時間、休業について
今回は籏智優子『知っておきたい!働くときのルールと権利(なるにはBOOKS)』2010 ペリカン社から働く際に知っておいた方が良いルール、権利などについて解説していきたいと思います。
1 時間外労働と割増金
法的労働時間外に仕事をさせる場合、会社は割増賃金を払わなくてはなりません。
・法定労働時間:1日8時間、週40時間の労働(プラスで1時間の休憩が必要)
・割増賃金:通常→時給から25パーセントUP
深夜→時給から50パーセントUP
休日→時給から35パーセントUP
休日深夜→時給から60パーセントUP
このようになります。月給の場合は、それを時給換算し、適応します。
そしてこれには派遣社員、契約社員、パートタイマーも含まれることも重要です。
休業手当
会社責任によって労働者の仕事が妨げられてしまった場合、すなわち、仕事中の事故や会社の責任で運営できなくなってしまった場合には賃金の60パーセント以上を保障しなければなりません。
休憩
次に就業中の休憩について説明します。
1日の労働時間が6時間をこれ得るときには、45分以上
8時間を超えるときには1時間以上
の休憩を与えなければならないというルールがあります。
これは、連続でなくても構わないということになっています。
有給休暇
有給休暇とは、給料を保障される休暇のことです。働くべき日に働く義務を免除され、しかも賃金が支払われます。
ですが、これを取得するには制限があります。
条件
①6か月間継続して働いたこと
②その間の全労働日の8割以上を出勤した
この条件を満たした者には1年間で10~20日の有給休暇が与えられます。
ここでも重要なのが派遣社員、契約社員、パートタイマーにも労働時間、日数に応じて適応されることです。
また基本的に「いつでも」この休暇を与えなければなりません。
まとめ
以上、働く際の権利について簡単に説明していきました。
しかし、アルバイト先でこのようなことを教えてくれた職場があるでしょうか?
職場からすれば、使い捨てのアルバイトにこのような権利があることを教えたくはないのです。
そのため、私たち労働者が知識を身に着け、「使いつぶされないように」しなければなりません。
興味がある方は、読んでみてはいかがでしょうか。
参考:籏智優子『知っておきたい!働くときのルールと権利(なるにはBOOKS)』2010 ペリカン社